フォーラム要約:大連立による消費税アップにしか道はない


3月11日の東日本大震災の影響を受け、2011年7月の正式立ち上げを予定していたメリディアン180は、当初の予定を大幅に変更し震災発生後より8日後の3月19日に急遽フォーラムを立ち上げる運びとなった。最初の2つのフォーラムは、余震が続いていた東京より春日直樹氏(一橋大学)と玄田有史氏(東京大学)の2人からの問題提起を中心とし、復興と財政、電力問題とその供給手法、情報開示と社会的影響、科学と研究者の役割、そして、震災における法解釈のあり方、といった震災が私たちに突きつけ続けている様々な問題に関して居住地や学術的背景が異なる参加者がメリディアン180というオンライン媒体を通して具体的な意見を交わすこととなった。春日氏を座長とした『現場からの声』と平行し、本稿では玄田氏が座長となったフォーラム『大連立による消費税アップにしか道はない』を振り返ってみたい。


3月20日より開かれたフォーラム『大連立による消費税アップにしか道はない』に玄田氏が提供された寄稿文は、3月22日付けの読売新聞朝刊において「復興へ安定的財源不可欠-超党派で消費税アップして」と題して掲載されたものである。フォーラムへの寄稿文は、復興に向けた支援として「長期間必要となる復興への費用と労力、そして、忍耐」を「被災した方々だけに負担をおしつける」のではなく「日本に生きるすべての人たちが」具体的にどのように責任を果たしていくのか、という玄田氏自身の考えを提言したものであった。そこで、玄田氏は「日本の赤字財政の現状」において「必要な財源を安定的に確保」するには「消費税率のアップに踏み出す」こと、「志を持った若い政治家たちが、もっと透明なところで声を挙げ、党派を超えて結束」すること、そして、「大連立により財政改革を実現」することなどを通じて「困難を克服すべく行動することで、亡くなった方々に報いること」が必要であると指摘した。 この玄田氏の提言は、5月31日までの約2ヶ月間にわたり非常に多角的な議論を導き出すこととなった。その中でもメリディアン180の参加者の議論の的となったのは、玄田提言の中にある1)被災者と負担を共有すべき「日本にいきるすべての人たち」が意味するもの、そして、2)安定財源としての消費税と税制改革に関する問題であった。 まず、1)被災者と負担を共有する「日本にいきるすべての人たち」の範疇に対し、アナリース・ライルズ氏(コーネル大学)は復興のための肯定的な「国としての結束」と懸念される「国家主義」の二面性を指摘した。国民主義への懸念とは、酒井直樹氏(コーネル大学)が指摘した「国民主義のもつ偽宗教性への無頓着」性や、ライルズ氏が9/11同時多発テロの際にアメリカにおいて体感した反外国人の修辞への恐怖感に代表される。特に、玄田氏の大連立という提言に対し、戦争時の「挙国一致や総力戦」的な副作用的なリスクへの懸念がコメントとして挙げられた。このような懸念は、増税といったような政策が正式に実践されることにより日本国内に居住する「国民」という範疇に当てはまらない人々に対する不平等や差別の助長の可能性といった不安にもつながっている。それに対して、玄田氏や宇野重規氏(東京大学)のコメントは、犠牲者との宗教的なつながりという国の概念的な共同体としての側面よりも、政治・財政的組織として存在している国という組織・制度の枠内でどのように復興に対応していくかということに論点がおかれている。日本における震災は、フォーラムの参加者も含め、現在においても私たちに「国としての結束」にある必要性と危険性の両面を間近に突きつけている。 また、玄田氏が復興支援のための具体的な安定財源として提唱するのが2)「思い切った消費税率アップ」であった。この提言に対してコメントをした参加者の間では、日本において税制改革をはじめとした構造改革が必要であるという点と負担の平等を考慮に入れるという点においてコンセンサスが見られた。しかし、具体的にどのように改革政策を立案し実行していくかということについては意見が分かれることとなった。レボン・バールセグヤン氏(コーネル大学)は消費税の増税が仮に行われたときは短期間の総需要の低下が見込まれることを指摘した。また、ダグラス・カイザー氏(イェール大学)は玄田氏の提言おいて逆累進となりかねない消費税の増税の制度的理由付けと、徴収された税金の振り当て案が示されていないことを指摘した。これに対する返答として玄田氏は用途が「復興のための財源」として明確であること、そして、日本において7割近くの企業が業績悪化を理由に法人税を納税していないことを挙げている(2009年国税庁資料など)。また、金融のスペシャリストは、累進的な所得税の増税が本来であれば適切であるとするものの、「所得税の徴税にかかる手間やその増税可能額の制限を考慮に入れると消費税率の引き上げ」に関する玄田氏の提言は「やむを得ないように思える」としている。 玄田氏はフォーラムに寄稿文を提供されて以来、日本政府の復興に関する専門委員として奔走されている。玄田氏の寄稿文は、震災にともなう復興財源の安定的な確保といった日本が直面している現実的な問題を対象としたわけであるが、分野も地域も多様な参加者を有するメリディアン180のフォーラムを通じることにより、玄田氏の論点が明確になるとともに、より幅広い問題を導き出すとことなったといえるのではないだろうか。玄田氏による提言は春日氏を座長とした『現場からの声』と交わりあいながら、メリディアン180の参加者の間で情報公開に関わる問題や法解釈にかかる問題、そして、希望の所在などといったようなより幅広い議論が交わされる原点となったが、それらの議論については『現場からの声』の要約において取り扱わせていただいています。

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