時事問答: 中国における司法改革

聞き手: 江 照信    掲載日: 2014年2月11日


徐キン*教授: 北京理工大学教授兼司法研究所所長。中国の司法改革に深く関与している第一人者の一人。 法と社会、司法システム、手続法などを専門とする。

メリディアン180: 徐教授、中国における司法改革について教授の考えをお聞かせ頂く機会を頂き感謝いたします。まず初めに、教授の研究内容について簡単に教えて頂けますでしょうか?

徐教授: 司法改革は、長年私の研究分野でありました。5年前に中国司法改革年次報告についてのプロジェクトを開始し、毎年初めに出版されています。報告は、中国内外において一定の効果を見せてきました。年間の司法改革の達成度についての全体的な評価に加え、私達は毎年報告にてこれらの改革における基礎的な問題を特集しています。例えば、2009年には司法改革における「二つの波と三つの要素(両波三元素)」という考えを取り上げ、2010年には、司法改革の脱政治化についての意見を募集し、2011年には司法改革への市民参加の役割を議論し、2012年は司法の独立の問題に再度焦点を当てました。2013年には、司法改革のための「トップレベルデザイン(頂層設計。中央政府による長期的かつ大規模な構造改革案)」の提案に取り組みました。とりわけ、中国の司法改革と法の支配の確立のために有用で実行可能なプランを提供するため最善をつくしました。私が関わった他の仕事としましては、司法改革について複数の研究報告を毎年発表し、様々な地域での司法改革実験を通して、またウェブサイト上での裁判の聴講や「裸足の弁護士」活動の奨励等、司法機関と司法改革プログラム発足に向け共同で取り組みました。

メリディアン180: 2013年、第18回中国共産党中央委員会第3回全体会議(第3回全体会議)が、「改革の全面的深化における主要問題についての決議」(以下、「決議」)を公表しました。新しい年次司法改革報告書草案で徐教授は、経済改革に関する議題のみが決議されていたこれまでの全体会議とは違い、今回は現在の司法改革を深化させるため次の10年間に向けたより全体的な計画が策定されたと述べておられます。決議においては、中国の発展戦略として法の支配の改革を優先させることを示していると強く強調されてきました。司法改革にとってこれはどのようなことを意味するのでしょうか?

徐教授: 2013年は、今後10年間の中国の司法改革の方向について決定した年でした。中国の人々にとって、第3回全体会議の最も大きな意義は、司法改革の重要性を改めて知るきっかけを得たことです。決議は直接的には司法の独立について言及していませんが、法の支配の確立を強調することで司法の独立の支えになってきました。このことは、司法の脱地方化や脱官僚化といった実質的な司法改革という次の段階に進むための機会を切り開いてくれます。しかし、司法の独立の確立は避けがたい問題であり、遅かれ早かれ中国はこの問題について触れなければならないでしょう。

メリディアン180: 中国の昨今の司法改革について全体的な意見をお聞かせ頂けますか?

徐教授: 第11回中国共産党中央委員会第3回全体会議(1978年) から現在まで、中国には二つのテーマが変わらずにありました。一つは経済発展であり、他方は法の支配の確立です。司法改革は後者のために重要です。中国独自の性格を持った社会主義制度の法律が大部分完了した今、焦点は司法改革へと移りました。

1980年代後半、中国は民事訴訟法改革を立ち上げ、その後2008年には、「司法制度改革の深化という問題についての意見とその作業メカニズム」を発布し、2013年の第3回全体会議では、司法制度改革を深化し、憲法と下位法を守り、裁判所における独立性と公平性を確保し、人権保護のために司法制度を強化することを提唱しました。 中国の司法改革は着実に進展しており、大きな成果をもたらしました。例えば、弁護士の知識と考え方が変化しました。彼らは現代的な司法制度の考えを持つようになり、また経済・社会構造や市民の考え方も大きく変化しました。このような変化を考えると、もはやどのような人間や組織でも中国を人治または無法で手に負えない状態へと引き戻すことはできないでしょう。

中国における法の支配の確立は、どの方向をとるかという決定についての重要なステージを乗り越え成功しています。法の支配と憲法主義へと向かう全体的な流れが大きく変化することはないでしょう。現在、社会的な衝突は激化しています。司法に対する人々の要求は、日増しに増加しています。各々の事件すべてに司法を与える、ということが人々の第一の要求になりました。しかし、司法制度や関連改革に対する不満に加え、司法の欠如、国民の信頼、権威そして長年に渡るものの限定的な司法改革の達成は、司法改革についての楽観主義に疑問を投げかけています。

メリディアン180: 最近、徐先生は中国司法改革のトップレベルデザインの提案に活発に従事しておられます。司法に対してトップレベルデザインを推進する理由について共有して頂けますか?

徐教授: トップレベルデザインは司法改革が正しい監督・管理のもと、全体的な計画に従って行われていることを確実にするものです 。中国司法改革の20年に渡る経験が明確にこの点を現しています。つまりトップレベルデザインを欠く司法改革は、機能不全な司法制度を状態化し、もしくは悪化させ、究極的には司法改革を無効なものとします。例えば、脱官僚化は改革の主要な目的であるべきでした。しかし、近年採用された「案件請示制度(内部勧告的意見。「伺い制度」あるいは「紹介回答制度」と訳される*)」の司法化や司法パトロール制度の確立といった改革手段は、 裁判所の内部の縦関係という官僚化を弱めるものではなくむしろ促進しています。全体的な計画と管理体制がトップレベルで欠如していては、「頭が痛むときには 頭をいたわり、足が痛むときには足をいたわる」というジレンマに陥ってしまいます。その結果、欠陥と矛盾に満ちた意味の無い改革しか行われないようになります。司法改革から生じるこれらの衝突は、異なる省庁間や中央地方政府間の衝突や、改革案の不整合、さらには全体・部分の齟齬などを含んでいます。こうした改革過程から生じた隔たりは、中央・地方政府による行動の間の不調和によく見てとれます。一方で、中央政府によって採用される手段は地方の状況をほとんど勘案しておらず、従って 地方が中央政府に建設的な返答を返すことや改革を実際に実行することはあまりありません。他方では、地方政府が提案する創造的な改革案が、中央政府の関心をひくことはほとんどないため、改革の成功事例を作ることが不可能な状態です。

長年、司法改革は技術的な改革に留まり、些細で断片的な改善しか行われていません。 多くの人は、この改革へのアプローチは、重要な結果をもたらさないであろうと考えています。実際、改革の停滞は 最も明確な問題でありました。とはいえ、そうした技術的な改革は、その直接的な効果が限定的であるにも関わらず、いずれより大きな司法改革へと発展するかもしれません。言い換えると、チリも積もれば山となるというように、技術的な改善が蓄積されることで、より実質的な司法改革に向けた勢いが増すことになるかもしれないということです。しかし、司法改革自体を些細で断片的なものにとどめるべきではありません。 大胆で断固として着実に歩む、明確に決定された方向性を持った全体的な計画であるべきです。司法改革のトップレベルデザインは、現在の機能不全に陥った改革のための煙火として捉えることができるでしょう。それは現在の改革の方向を決定し、より明るい未来のために重要なものであります。

メリディアン180: 司法改革の「トップレベルデザイン」について説明して頂けますか?

徐教授:2010年10月、改革の「トップレベルデザイン」という用語が初めて第17回 中央委員会第5回全体会議にて採用されました。この用語は元々大規模な建設計画などで使われていましたが、後にその他の様々な分野において、成長戦略を意味する言葉として用いられるようになりました。「トップレベルデザイン」は、単純に「トップダウン」と「総合的」な改革に分解することができます。つまり、「トップレベル」は重要な目的へのコミットメント、高い目標、トップダウンによる管理を、「総合的」は、全体としての計画へのコミットメント、包括的な観点、組織的な構築、総合的なデザインを意味します。「トップレベルデザイン」というアイディアは、現在の国内情勢や改革の現状に合致したものです。しかし、いわゆる初期の改革の小ささ、浅はかさ、短絡さ、そして内在的な矛盾が比較的長期間続いたため、多くの問題と疑念が高まり、改革の評価が危険にさらされました。「トップレベルデザイン」を注意深く検討しなければ、実質的な改革は多くの障害にあうことになり、進歩は期待できないでしょう。

トップレベルデザインに基づいた改革では、何よりもまず方向性の定義づけを行い、適切なアプローチを設け、改革に向けた突破口を切り開く必要があります。憲法主義、民主主義、法の支配は中国の将来の発展にとって不可避であります。改革のアプローチについて以前は、周辺から中心へ、地方から国家へ、草の根レベルからエリートレベルへ向かうものでした。今後、改革アプローチは、上から下へ、国家から社会へ、中央から周辺へという逆の方向を強めるべきです。

メリディアン180:トップレベルデザインとは要約するとどのようなものでしょうか?

徐教授:私が構築した司法改革のための具体的なデザインは、「五対の関係」と「六つの保障」に一般化することが可能です。前者は改革基盤を保障するもので、後者は改革のための重要な積み木の役目を果たします。この二つは唇歯輔車の関係にあります。

メリディアン180:今述べられた「五対の関係」について説明して頂けますか?

徐教授:第一対は、司法改革戦略を設けることです。改革戦略の第一の目標は、司法改革および政治改革を通して社会の安定化を図ることです。全体的に考えた場合、司法改革は政治改革の突破口を切り開く出発点として優先づけられるべきです。

第二に、司法の独立は司法と中央および地方政府、特に党派政治との関係性について取り組むことを目的としていると言えます。司法との関係について、中国共産党ができる最善のことは、政治的・組織的な分野で主役を演じることです。しかし、党が司法制度に介入すべきでないという原則は守られるべきです。

第三に、司法、立法、行政部門のバランスを正しく調整するために設計された司法審査制度を提案し、立法行為の合憲性と行政行為の合法性について保証します。中国で司法審査を開始することは、行政行為に対する裁判所の司法審査権が拡大することを意味します。また、裁判所は人民代表委員会に対して報告する必要がなくなります。

第四に、司法権の配分の最適化を提案します。つまり、司法機関内外の関係を適切に管理する制度を設けるののです。裁判所内については、以下の制度の改革もしくは廃止を提案します。司法の実績を数値化して評価する制度、案件請示制度、ならびに人民法院長(裁判所所長)、事件担当裁判長、および審判委員会(裁定委員会)が最終裁定権を独占的に有する制度。裁判官による独立した裁定は十分に保護されなければなりません。

第五に、司法の終局性の確保を提案します。それによって、司法とその他の紛争解決制度との関係を適切に処理することが可能になります。

メリディアン180: 「六つの保障」についてどのような具体的な対策を提案されますか?

徐教授: 前述の「五対の関係」が作り出す司法基盤は具体的な制度的保証を必要とします。大まかに言うと、これらの保証のために六つのカテゴリーが存在します。

  • 第一は、司法における雇用保障です。雇用保障は、判事が 正確かつ効率的に裁定し、検察および裁判官が独立して任務を果たすために不可欠です。また、裁判官と検察官の個人情報を保護し、彼らの安全を保障し、法プロフェッショナルとしての職務について免責の権利を与えられるべきです。
     
  • 第二は、予算の保障で、それは司法機関が機能するための重要な前提条件です。司法が独立的かつ公正に機能するには、地方財政から独立した運営が必要となります。従って、まずは予算管理を省政府の管轄にし、いずれは全て中央政府が管理する体制に移行する必要があります。
     
  • 第三は、公平性の保障です。公平性を実現するたには、司法の独立を確立し、司法監督、説明責任、効率性を向上させる必要があります。このため、司法の透明性を促進し、司法手続きを改革し、独立した裁定に一貫して取り組み、誤った判決を防止する制度的な改革が必要になります。
     
  • 第四は、司法資源配分の問題を解決することを目的とした効率性確保の保障です。司法資源を保護し効率的に活用することはこの「トップレベルデザイン」の根幹であります。
     
  • 第五の保障は民主化です。司法の民主化を達成する最も重要な方法は陪審員制度であると考えます。
     
  • 最後の保障は、社会的弱者の利益を保護することです。つまり、司法へのアクセスを確保することです。

メリディアン180: 現時点において、教授の司法改革「トップレベルデザイン」は野心的な政治的・社会的プロジェクトであるように思えます。司法改革におけるそうした重要事項をどのように現実的に達成するお考えですか?

徐教授: トップレベルデザインを推進するために、二段階の戦略を提案します。「五対の関係」と「六つの保障」は長期的な理想ですが、そこから近い将来現実的に達成可能な目標を引き出すことができます。従って、以下のアプローチを提案します。

  • 第一に、改革を別々の層に分けて、最も簡単なものから始め、より困難なものへと進めます。 特にどのような困難が司法改革、ひいては国家改革を妨げるのかを具体的に分析する必要があります。中道にして廃むことは許されません。司法改革が直面する困難な課題の多くは、大抵特定の利害団体が原因であります。従って、困難とされている問題の幾つかは、実は根拠のない思い込みである可能性もあります。
     
  • 第二に、司法制度の脱政治化を提案します。法的な手法をもって司法改革を改善できる可能性は大いにあります。つまり、脱政治化の手法と司法制度を政治から切り離す戦略を用いるということです。社会主義者と中国共産党による指導を除くと、理論的に言えば、ほぼすべての問題は手法の問題として捉え解決することが可能です。
     
  • 別のアプローチは、裁判所の制度を通して改革を適用することです。裁判所と裁判官は同様に、政府による干渉に対して不満をしばしば口にします。しかし、最大の干渉は裁判所所長あるいは裁判長という裁判所制度内部の勢力から来ています。何故なら、地方党幹部や地方政府は、裁判所所長や裁判長を通して、司法に干渉しているからです。つまり、司法の脱官僚化を現実的な方法で実現し、裁判所の独立性を向上するためには、司法改革はまずそうした裁判所制度内の歪みを是正することから着手する必要があります。例えば、上級裁判所は下級裁判所に干渉しない、裁判所の高官は具体的な事件には干渉しない、等です。
     
  • 第四のアプローチは、勢いを溜めることです。司法改革の進歩はインセンティブと勢いを必要とします。上部の人々が改革の決定を下したときのみ、下部の人々は改革に対し自信を持つことが可能です。不幸なことに、長い間、双方は存在していませんでした。このため、透明性を向上し、改革に国民が参加するよう呼びかけ、司法改革の研究について社会が従事するよう促すため司法改革を開始することを提案します。人民代表委員会では、司法改革委員会を設置し、戦略過程に一般人を参加させることを提案します。
     
  • 最後のアプローチは、法コミュニティの全体的な状況の改善に向けた基礎的かつ長期的な戦略です。最善の制度的デザインを設けても、成熟した法コミュニティなしには機能しません。もちろん司法改革は進行中ですが、法コミュニティの全体的な質の改善を重視する必要があります。双方は相互に結びついています。法コミュニティを改善するためには、現在の裁判官の選考制度についての改善に注力することを提案します。また、法学教育もまた大きな改革を必要とします。法プロフェッショナル教育と法倫理教育を重視する方向へ変革しなければなりません 。

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訳注:

* キンは晰から木を除いた字

**詳しくは栗津光世著 『中国における「司法解釈」と「案例指導制度の展開』をご参照下さい。

(翻訳: 成瀬将志  編集: 趙 成仁)