時事問答: 朝鮮半島の60年

聞き手: 金 唹珍    掲載日: 2013年8月19日


近年の朝鮮半島情勢について、李秀赫教授(壇国大学)にお話頂きました。李教授は元大韓民国外交通商部次官補で、第一回および第二回六者会合では韓国主席代表を務めていました。また、李教授は元大韓民国国家情報院第一次長でもあり、ドイツおよびユーゴスラビア駐在大使を務めた経験があります。

-- 7月27日に朝鮮戦争停戦60周年を迎えました。朝鮮戦争の遺産と今なお続く戦争の影響についてお話下さい。

朝鮮戦争は朝鮮半島赤化統一を目論む北朝鮮が1950年に南進(韓国侵攻)したことで勃発し、三年余にわたって戦われました。同じ民族同士で争われたこの戦争は、朝鮮半島に途方も無い人的・精神的・物質的被害をもたらしました。また、中国、ソ連、米国の介入によって、冷戦の始まりが告げられ、国際平和における国連の役割が再認識されることにもなりました。

日本の帝国主義から独立して5年も経たないうちに勃発したこの戦争によって、南北間の憎悪はより深いものとなり、両国の分断は固定化されてしまいました。あと数年もすると、分断の歴史は70年になります。韓国のように第二次世界大戦後に分断さ れた東西ドイツは、[1990年に]45年ぶりに統一を達成しましたが、南北朝鮮は未だ敵対関係にあり、分断が続いています。この状況がさらに長期化すると、分断が恒久化してしまうおそれがあります。

-- 開城(ケソン)工業団地問題についてお尋ねします。同問題の解決は最近の南北朝鮮関係において、おそらく最も重要な課題の一つだと思われます。7月に開城工業地団地正常化に向けた交渉が6度に渡って行われましたが、交渉は行き詰まりを向かえていました。ところが、去る8月14日、開城工業団地正常化にむけて積極的に取り組むことが南北両国の間で合意されました。今回この合意が達成された理由、そしてこの合意の背景についてお話下さい。

北朝鮮の武力挑発によって朝鮮半島の軍事的緊張が高まっていた今年3月に、北朝鮮は開城工業団地の労働者を撤収させ、操業を中断させました。開城工業団地 は、[韓国よりも]北朝鮮にとって重要な事業なので、その北朝鮮が同事業を中断した理由について様々な憶測が飛び交いました。しかし、北朝鮮は最終的に開城工業団地の正常化に合意しました。北朝鮮は今年の3月から4月にかけて、戦争も辞さないという好戦的な態度を示し、軍事的緊張を煽るような言動を繰り返していましたが、それは政治的プロパガンダとしての側面が強く、実際には戦争に至らないよう綿密に計算された言動でした。また、それらが行われたのが、韓国 の朴政権発足初期だったことにも注意する必要があります。北朝鮮は対内的にも対外的にも一定の目標を達成することができたので、和解と協力の姿勢に切り替えて、融和的な態度をとっています。現時点の北朝鮮は、こうした融和的なジェスチャーを取るほかありません。なぜなら韓国との断絶は、北朝鮮の真意でもな く、目的でもないからです。北朝鮮は開城工業団地を切実に必要としているのです。一方、韓国政府にとって開城工業団地の成功は、南北間の政治的和解と経済協力の試金石となります。そのため、韓国政府には忍耐、柔軟性、および自制が要求されています。

-- 南北朝鮮は合意に達することができました。今後の展望についてお話下さい。

韓国の国民と世界の人々にとっての大きな関心は、北朝鮮が果たして韓国との約束を守り、それをきちんと実行することができるのか、ということだと思います。北朝鮮が以前のように合意を破棄することがないよう、何らかの保障措置を設ける必要があります。

この問題の背景には、北朝鮮に対する不信感があります。この不信感は、北朝鮮が自ら招いたものです。海外の企業が開城工業団地に投資する意欲があったとしても、北朝鮮への不信感が払拭されなければ、それは実現しないことでしょう。北朝鮮は開城工業団地閉鎖の経験を振り返り、今後軍事的あるいは政治的な理由からこのような問題が再発しないよう努める必要があります。

-- 4月に開城工業団地が閉鎖されてから、8月14日の合意までの間に、朝鮮半島情勢は大きな変化を遂げたように思えます。特に、北朝鮮はここ2ヶ月の間に融和的な態度を示すようになり、米国や韓国と積極的に対話を進めていこうとする姿勢を表しています。これは[武力威嚇を続けていた]今春とは打って変わった姿勢です。この変化をどう理解するべきなのでしょうか?そして北朝鮮の姿勢の変化は朝鮮半島情勢にどのような影響を及ぼすことになるのでしょうか?

韓国の国民の多くは、北朝鮮が開城工業団地の正常化の合意や離散家族再会推進、さらには金剛山観光再開の議論などを通して、南北関係悪化の要因となった 2010年天安艦沈没事件および延坪島砲撃事件、ならびに2008年金剛山韓国人観光客射殺事件などを始めとした一連の事件の責任から免れようとしている のではないかと懸念しています。南北間の対話は、それ自体が重要なのではなく、南北間の協力が持つ意味について、両国間で共通の理解を得ることが重要なのです。

北朝鮮はこれまで挑発、対話、協力、挑発といった悪循環を繰り返してきました。そのため、北朝鮮が今回の融和的な姿勢を捨てて、再び挑発的な態度に戻るようなことがあってはなりません。朴大統領は、原則に基づいた北朝鮮政策を実施すると明言しました。北朝鮮はこれまで軍事的挑発のほとぼりが冷めたころに対話の再開をちらつかすことで、韓国から何らかの経済的援助を得てきました。こうした悪循環はこの機会に断ち切る必要があります。米国オバマ政権にも同じことが言えます。このような観点から、今回の南北間の合意は今後の南北関係に多くの示唆を与えるものだと言えます。

(この記事は李教授へのインタビューの第一部です。8月30日に配信される第二部では、北朝鮮の核問題についてお話し頂きました。)

-- 北朝鮮の核問題についてお話下さい。韓国だけではなく、国際社会が北朝鮮の核問題に対して深刻な懸念を示しています。北朝鮮の核開発の動機は何なのでしょうか?北朝鮮は何を望んでいるのでしょう?

北朝鮮の核問題が国際社会の問題として浮上してから20年が経ちました。また、北朝鮮の濃縮ウラン計画によって惹起された第2次北朝鮮核問題に[対応するために]六者会合が設けられてから、早くも10年が過ぎようとしています。[1994年の]第1次北朝鮮核問題の際には、米国と北朝鮮の間で所謂「ジュネーブ合意」が交わされ、第2次北朝鮮核問題の際には、六者会合を通して[北朝鮮側が]幾つかの点で合意しました。しかし、そうした交渉過程を得て合意を交わしたにも関わらず、北朝鮮は核を放棄せず、むしろ着実に核能力を増強させてきました。また、北朝鮮は核実験や、2011年のウラン濃縮施設公開などを通して、その核技術を世界に誇示しています。

その結果、北朝鮮との核交渉の継続に対して懐疑的な意見が聞かれるようになりました。北朝鮮の姿勢を見る限り、北朝鮮が核を放棄することはありえないであろうという見方に同意しています。北朝鮮は金政権体制を維持するために、最後まで核を放棄しないであろうと考えています。

とはいえ、北朝鮮は核を放棄するべきですし、国際社会はそれを説得しなければなりません。北朝鮮が核を放棄しなければ、朝鮮半島の統一はありえません。そして[朝鮮半島統一]は北東アジアの平和および世界の平和への道を開くことになります。北朝鮮の核は日米韓のみならず、中国にとっても脅威となる問題です。中国も恐らく[北朝鮮の核問題に対して]懸念を感じているのではないかと考えています。

-- 最近の状況を鑑みて北朝鮮の核問題が二国間あるいは多国間交渉によって解決される可能性はありますか

北朝鮮の核問題解決に向けて六者会合が開催されてから10年が経ちましたが、核問題は依然として未解決のままで、北朝鮮はむしろ核能力をますます増強しています。そのため、六者会合に対して懐疑的な意見が多いのは当然といえます。北朝鮮が自ら核を放棄しない限り、交渉を通して、あるいは強制的な方法で、非核化を促すほかありません。物理的な制裁や軍事的手段による強圧的な解決策に走らず、平和的交渉に基づいた方法を模索することが最も望ましい紛争解決の形であるため、忍耐を持って交渉を継続する必要があります。六者会合に参加している北朝鮮を除いた残りの5ヶ国が、六者会合による解決を諦めない限り、六者会合は再開すると考えています。中国が六者会合による解決を支持しているので、六者会合の再開はそれほど難しいことではありません。しかし、北朝鮮を信頼していない米韓の政策と思惑が、六者会合再会のカギを握っているのが現状でしょう。

-- 李先生は第二回および第三回六者会合で韓国主席代表を務め、それ以前にもジュネーブでの四者会合で韓国代表団のメンバーを務めました。北朝鮮との核問題交渉の特異な側面やその難しさについてお話下さい。

実際の交渉の場に出る政府代表団は、基本的には本国政府の指令に従い交渉に当たっています。しかし、対立関係にある国同士の交渉は、静的ではなく、動的であるため、柔軟な対応が求められます。代表者の中には、交渉を成功させようと強く意気込む方もいるため、本国政府の指示に不満を感じる方もいます。そのため、韓国や米国よりも、むしろ北朝鮮側の方が多くの困難を経験したのではないでしょうか。

-- 北朝鮮の核問題解決に向けて、様々な制裁や多国間交渉が行われました。しかし、北朝鮮は依然として核開発を進めています。この状況についてどうお考えですか?核開発の停止や長期的な平和を達成するためには何が必要なのでしょうか?

北朝鮮の核問題は、朝鮮半島問題の「核」であるといえます。核問題の解決は、朝鮮半島統一に向けて大きな意味を持つことになります。そのため、北朝鮮が核を保有している限り、朝鮮半島統一が可能となるような国際的な枠組みは整いません。北朝鮮の核によって、北東アジアにおける軍拡競争はさらに激しさを増すことになるので、北東アジア各国は安全保障の問題に直面することになります。平凡な主張ではありますが、北朝鮮も自国の生存を考えると、核の放棄が賢明だといえます。

-- 北朝鮮の核開発問題、そして北朝鮮問題全体における中国の役割についてお話下さい。また、中国の北朝鮮に対する最近の姿勢についてどうお考えですか?

中国は、北朝鮮の核保有には反対するものの、核問題が北朝鮮の崩壊に繋がるような状況は国益に反する、という立場なのではないか、という分析がこれまで大勢を占めていました。

しかし、北朝鮮の度を越えた挑発と、予想以上に進んでいる同国の核開発は、中国にとって負担となるだけではなく、脅威にもなりえます。中国の今後の北朝鮮政策とは、制御可能な範囲で、現在の体制を維持することだと思います。

-- 北朝鮮の核問題に対して、韓国はどのような立場を取り、どのような目標を持つべきだと思いますか?

 

北朝鮮の核問題は、韓国を非常に混乱させる問題です。深刻な安全保障問題であり、周辺国との関係に大きな影響を与え、そして国内政治を左右する不確定要素でもあります。

韓国国民最大の悲願を朝鮮半島の統一とすると、北朝鮮の核問題は必ず解決されなければならない問題です。時間が経過すればするほど、北朝鮮の核能力は増強され、核問題の解決がますます難しくなるような局面に進むことが懸念されます。

韓国政府にとって外交安全保障上最も深刻な問題は、北朝鮮の核問題です。北朝鮮が核を持っている限り統一は難しいという理解の上で、核問題に対応する必要があります。

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李秀赫 (Soo-Hyuck Lee) -- 檀国大学大学院法学・行政学研究科教授。大韓民国国家情報院第一次長、外交通商部次官補、および駐ユーゴスラビア大使、駐ドイツ大使を経て現在に至る。 1997年の四者会合、2003年および2004年の六者会合で韓国の主席代表を務めた経験がある。朝鮮半島情勢や統一問題について執筆しており、著書に 「統一ドイツとの会話」(2006年、ランダムハウス・コリア出版)、「変革の時 - 北朝鮮核問題の分析」 (2008年、韓国中央書店); および「北朝鮮という現実」((2011年、韓国21世紀書店) がある。