市民とその他

第三部: 叶竹盛氏が語る、中国における外国人に対する法的枠組みと、「三非」外国人に対する社会保障について

聞き手: 史 大暁 (メリディアン 180)     インタビュー日: 2014年9月14日

叶 竹盛: 中国の有力時事週刊誌「南風窓」の上席記者。香港中文大学法学博士(2014)。中国とその他の国における法の支配に関連する動きと問題について多数の記事を執筆してきた。また、学者としても、政治・社会・経済的転換期を迎えた国における法の支配の在り方について研究しており、「法の支配」でもなく「法治主義」でもない、新たな法と社会の在り方を追及している。

叶先生、インタビューに応じて下さりありがとうございます。過去数十年の間に、多くの中国人が海外に移民しました。しかし最近になって中国への移民が増加してきているという事実はあまり知られていません。2年前の「広州事件」を受けて、中国政府は同国における移民問題を憂慮し始めるようになりました。また、北朝鮮、ベトナム、ラオスやミャンマーからの移民に関するニュースが中国メディアの見出しを賑わしています。

1. 中国語では、「移民」という言葉は海外からの移住者だけではなく、国内の別の地域からの移住者も含まれます。今回は海外からの移住者という意味の移民について、叶先生にお話しをお伺いしたいと思います。

中国の公式な文書では、海外からの移住者を「移民」とは通常呼びません。中国では国内の他の地区に移住し、戸籍を変えた人を移民と呼びます。例えば、三峡ダム建設の際に強制移住を余儀なくされ、全国各地に移住した方々は「三峡移民」と呼ばれています。公式文書では、海外からの移住者を通常「外国人(原文まま)」と呼び、また移住してきた理由に基づいて様々な名称が使われています。

ヘンリー・ノーマン・べチューンのイメージが強いためか、中国人の外国人に対するイメージは、中国の発展に寄与する人々というものです。特に改革解放初期には、多くの管理職や技術者の人材が海外から集まり「三資企業」の建設に携わりました。また海外の研究者や教育者も新たな学校や教育機関の設立に寄与しています。彼らは「海外専門家(原文:外国専家)」や「海外有能技術人材(原文:外籍高層次人才)」と好意的に呼ばれる場合もあります。

北京市の合法就労外国人に関する実証研究によると、彼らの大多数はそれぞれの所属組織で中高位の役職についています。表面的には外国人の多くは所謂ホワイトカラーに属しています。しかし、私の知る限り、外国人の就職を役職や立場に基づいて制限するような法律はなく、外国人の雇用に特別な要件や資格要求はありません。

中国における合法就労外国人の数は継続的に増加しています。ある調査によると、2004年から2008年にかけて、北京の合法就労外国人は年平均17.8%も増加しました。また、あるメディアの報道によると、中国の合法就労外国人の数は、過去十年の間に3倍以上に増加し、2003年の6万人から2013年には24.64万人にまで増加しました。この統計は比較的信頼できるものです。所謂合法就労外国人とは、「外国人就業許可証」(原文まま)を有している外国籍の人を指します。そのため、合法就労外国人の数は、同許可証の発行数を調べることで確認できます。なお、ここでいう「就労」とは、中国で「雇用者に雇用されている(原文:用人単位)」ことを表す言葉であるため、投資やビジネスで中国を訪れている人を含まず、狭義の意味で理解されるべきです。そのため、「外国人就業許可証」を有していない「不法就労者」や、投資やビジネスで中国を訪れている外国人の数を含めると、中国で「働いている」外国人の数は、公式資料が示すよりもはるかに多い数になります。

不法就労者の数は、上述した統計から推測できます。ある研究によると、広州にいるアフリカからの外国人移住者の中648人を調査した結果、そのおよそ40%が不法滞在者でした。また、公安当局の統計によると、2011年末には、中国の常在外国人(合法的に滞在している外国人)の数はおよそ60万人です。この二つの数値を合わせて考えると、不法滞在者の数は常在外国人のおよそ半分ほどなのではないかと推測されます。しかし、この数には密入国者は含まれません。密入国者は多くの場合、経済的に恵まれていない国からきます。あるメディアの報道によると、珠江デルタのとある工場で働いていた東南アジアからの「黒工(不法就労者)」の数は200名だったそうです。前出の広州におけるアフリカからの移住者に関する調査によると、合法就労外国人と違い、不法就業者の殆どは低学歴であるため、不熟練労働にしかつけず、所謂底辺の仕事についています。

とはいえ、中国の「三非(訳注:中国語では不法入国、不法滞在、不法就業は全て「不」という字ではなく、「非」を使うため、こう呼ばれている)」外国人の数は誇張される傾向があります。例えば、ロシアのメディアは、2012年単年で中国から強制送還された三非外国人の数は20万人にも上ると報道しました。しかし、この統計は信用できません。なぜなら、公安当局の統計によると、全国公安機関出入境管理部門が2011年に取締まった「三非」外国人の数は2万人ほどしかいなかったからです。「取締り」には「送還」も含まれますが、2005年の公安当局の統計によると、十年間で中国が強制送還した「三非」外国人の数は合計で6.3万人ほどでしかありません。

2. 中国政府は、海外からの移住者に対してこれまで様々な措置を施してきました。現在の中国の移民政策についてお話し下さい。

在中外国人を巡る中国の法的枠組みは(1)権利の保障、(2)行政管理、(3)犯罪防止などの幾つかの方面を主眼に進められています。権利の保障という側面に関しては、中国は憲法第32条の規定により、国内にいる外国人の法的権利および利益を保護しなければなりません。また、在中外国人は中華人民共和国の法律を守らなければなりません。これ以外にも、2011年には、『中国国内で就業する外国人の社会保険加入に関わる暫定的な措置』と題した部門規章が公布され、在中外国人労働者の社会保障に関する権利が具体的に規定されています。現在の中国の在中外国人を巡る法規制は主に行政管理を目的としており、その核心となる法律は2013年に制定された『中華人民共和国出境入境管理法』です。なお、同法も「中国国内における外国人の法的権利および利益は法によって保護される」と規定しています。

また、『外国人在中国就業管理規定』は在中外国人労働者に対して特別なルールを設けています。外国人犯罪および違法行為に関する法律もあり、例えば『中華人民共和国出境入境管理法』は、刑事法と治安処罰法が外国人にも広く適用されることが明記されています。一般的なことを申し上げますと、中国で犯罪を犯した外国人は、中国公民同様、中国の法律で裁かれるべきです。しかし、犯罪を犯した外国人は、罰として国外退去が命じられることが一般的です。

3. 一部の国では、例え国外から移民してきた人であっても、ある程度その国の社会保障の恩恵を享受することができます。では、中国では、「外国人」は、一般の中国人同様、健康保険や年金などといった社会保障に参加することが出来るのでしょうか?

中国で働く外国人は社会保障制度に参加することができます。これは、実は最近になってやっと普及し始めた政策です。2011年度の北京の合法就労外国人のうち、社会保障に加入していた人は、7%以下です。しかし、それが2013年になると、中国全土において、ほぼ全ての外国人労働者が社会保障に加入していました。

2013年の中国人力資源および社会保障部の統計によると、中国で働いている外国人のうち、社会保障制度に加入している人の数は合計で20万人強で、それは政府の統計が示す合法就労外国人の総数と大きな違いはありません。これは合法就労外国人が中国の社会保障制度の対象範囲に充分含まれていることを表しています。

別の言い方をすると、近年になって外国人に対する社会保障の問題がやっと重視されるようになり、状況が徐々に改善されるようになったということです。しかし、「三非」外国人は依然多くいます。そのため、軽視されがちな重要な問題は、不法就労外国人の利益も充分な法的保護の対象となるのか、というものです。社会保障政策に関して言うと、その答えは全くの「ノー」です。何故なら、「三非」外国人は、社会保障を受けるのに必要な書類や証明書(例えば『外国人就業許可証』)を提供することができないからです。しかし、近年の幾つかの判決は、不法就労外国人でも、雇用主と争いが起きた際に、「不法就労」していたからといって、労働者としての権利や利益が否定されるわけではないという判断を下しています。

例えば、2013年の上海で下された判決を例に見てみましょう。外国人である原告は、雇用主であった被告を相手取り訴訟を起こしました。原告は当時『外国人就業許可証』を持っていませんでした。しかし、裁判所は原告の要求を認め、被告に不払い賃金の支払いを命じました。その判決は、『労働合同法(労働契約法)』ではなく、民法が労務関係に関して定めているごく一般的な原則に基づいて下されました。裁判所は、当事者間で結ばれた契約を、一般的な労働契約とみなしたため、原告が予め行政から就業許可を得ていなくても、当該契約には法的拘束力があると判断したのです。このように不法に就労している外国人であっても、その権利が保障される可能性はあります。とはいえ、労働合同法[に基づいた関係]の方が一般的な労務関係をよりも、労働者の権利が手厚く保護されることになることも指摘されるべきです。例えば、労働合同法に基づいて雇用された場合、福利厚生が一般的な労働者よりも高くなります。また、一般的な労務関係の場合、最低賃金の対象にはなりません。

また、上記のように、裁判所の柔軟な法解釈によって法の保護を得られた不法就労外国人の多くは、就労資格こそないものの、在留資格は持っています。その反面、在留許可を得ていない不法就労外国人も多くいますが、彼らは労働問題に直面しても、司法の救済を求めることはできません。なぜなら、そうした場合、行政から処罰を受けることになり、国外退去を命じられることになるからです。そのため、法的保護を受けられない不法就労外国人は多くいると言えます。

4. 現行の法制度は、上述されたような問題に対応しきれているのでしょうか?そして、今後は、どの様な改革が必要となるのでしょうか?

まずは、現状について考えて見ましょう。中国は移民国家ではありませんが、在中外国人の数はますます増加しており、そうした傾向は中国の政治、経済、社会および文化に多大な影響を及ぼすであろうと考えられます。広州とは違い、中国の殆どの地域では、「三非」外国人が一箇所に集まりコミュニティーを形成するような現象はあまり見られていません。しかし、東南アジアや、中央アジアからの密入国者の問題が日増しに深刻になっており、「三非」外国人コミュニティがこれからますます増えていくことが予想されます。とはいえ、私が思うに、そのようなコミュニティが形成されても、さほど大きな問題にはならないと思いますし、例え何か問題が発生したとしても、それは孤立した散発的な問題に留まるでしょう。そのため、政策策定者がこの問題を気に留めることはまずないといえます。

しかし、経済の発展と共に、外資は中国市場に対して以前ほど魅力を感じないようになり、実際に外資の流入は減少し始めています。一方では人件費が増加が見られますが、他方では労働供給の減少が見られます。その相乗効果によって、中国経済は大きく苦しめられることになります。そのため、中国でも、産業界の労働需要を満たすには、隣国やアフリカから大量の移民を受け入れることを真剣に検討しなければなりません。現在の中国の法制度は、労働力が充分に供給されていることを前提としています。そのため、現行の法制度では、そうした未来に対応しきれなくなるかもしれません。

5. 現政権が中国の移民政策を改革するには、何が最も大きな障害となるのでしょうか?そしてその障害を乗り越えるためには、何が必要となるのでしょうか?

移民政策に関して言うと、立法を通じて解決できる問題はあまり多くありません。 移民を巡る経済的な問題は幾つか解決できるかもしれませんし、確かに改革解放以降その側面においては多くの経験を得ることができました。しかし、その他の政治的・社会的・文化的な問題を、法を通じて短期間で解決することは難しいと言えます。

長期的な視点から考えると、中国が直面している最も大きな挑戦は、他の国々同様、如何にして移民に平等な公民権を与えるか、という問題です。この問題には、「外敵を払うにはまず国内を安定させよ(原文:攘外必先安内)」という言葉が当てはまります。まずは中国公民の基本的権利を確立し、その経験から得た教訓を移民に対して用いるべきではないでしょうか。