市民とその他

第四部: 李喆雨 -- 韓国における移民人口の変動について 

聞き手: Eo-Jean Kim (メリディアン 180)     インタビュー日: 2014年10月4日

李喆雨 – 韓国延世大学法学部教授。法と社会、市民・移民問題などを担当。研究関心は社会理論、法の社会史、および市民と国家の在り方。最近の業績には『市民権、国籍、そして法的身分』(The Encyclopedia of Global Human Migration 2013収録)、そして、『それで自分を韓国人だといえるのか?韓国における法、政治、そして国家の一員としての意味』(Citizenship Studies 2012収録)。現在は民族主義的市民権(ethnizenship)およびディアスポラにおける法的形態の比較的考察、そして韓国における移民法に関する書籍の執筆の主編を担当している。また、韓国法務部移民政策諮問委員会の議長を努めている。

1. 過去数十年の間に、韓国内の移民人口は大幅に増加しました。韓国政府の統計によると、現在150万人以上の外国人が韓国に滞在しています。また、OECDの調査によると、韓国の長期滞在外国人は約112万人です。このように、移民人口が増加した背景にはどのような要因があるのか、お話しください。

韓国における「人口の流出入の変化」、つまり移民輸出国から純受入国への変化は、1980年代後半から始まりました。当時中国から多くの朝鮮族が韓国に移民してきましたが、それはその後の急速な移民の流入の前兆であったと言えます。1990年代初頭から東南アジアからの移民が韓国の労働市場に流入するようになりました。しかし、「産業研修制度」が導入された1993年の時点でも、技能労働および単純労働に従事している移民の合計は7万人を下回っていました。また、その内の8割は在留許可のない外国人でした。現在では、移民労働者は70万人を超えており、そのうちおよそ19万人が不法就労者です。専門職や技能職に従事しているのは就労ビザ保有者60万人(ビザ切れ滞在者7万人を含む)の8パーセントにしか過ぎず、雇用許可制度を利用しているアジア諸国からの「ゲストワーカー」は全体の43%です。また、訪問就業制度を通じて働いている中国からの朝鮮族の数は、それらをしばしば上回っています。結婚移民も移民の重要な形態の一つです。1990年に国際結婚したカップルは全体の1.2パーセントにしか過ぎませんでした。ところが、2004年から2010年の間に結婚したおよそ一割が国際結婚でした。1990年代前半は主に韓国女性と外国人男性の結婚が見られましたが、1995年にからその傾向が逆転し、結婚仲介業者などを通してアジアの発展途上国の女性と結婚する韓国人男性が急増しました。いまでは、韓国人男性・外国人女性の組み合わせの数は、韓国人女性・外国人男性の組み合わせよりも2~3倍多いとされています。調査によると、2013年末には、15.1万人の外国人が配偶者ビザで韓国に在留していました。また、同年に外国人配偶者8.4万人が帰化しました。そのため、ゲストワーカーとアジア諸国からの結婚移民が韓国内における最も大きな移民グループであると言えます。(また、ここで言う移民とは、米国移民法における移民とは意味が異なります)。

韓国の移民の中で最も多いのは中国からの移住者ですが、その内の大多数が朝鮮族です。ゲストワーカーの半数以上、そして外国人配偶者の60%以上が中国の朝鮮族です。そのため、韓国における移民の増加は主に帰還移民によって促されています。とはいえ、そうした流れは現在減少傾向にあります。

こうした移民傾向は、韓国社会の人口動態および政治・経済情勢の変化によって促されています。高齢化と経済構造の変化によって一部の業界において労働力の不足が見られるようになり、外国人労働者の需要が高まりました。そのため、より開放的な移民政策に対する肯定的な世論が形成されるようになったのです。冷戦後の政変と、グローバル化やトランスナショナリズムに対する実利的な観点の広がりによって、朝鮮民族ディアスポラとの積極的関与が提唱されるようになりました。その結果、帰還移民の扉が開かれるようになったのです。

2. 韓国社会は上記のような人口動態に対してどの様な反応を見せているのでしょうか?また現在の移民政策や法整備に対する李先生の考えをお聞かせください。また、移民の存在感が増していく中、韓国社会の移民に対する認識はどのようなものなのでしょうか?

韓国は日本をモデルにして「産業研修生」制度を1993年に導入しました。これは安価な外国人労働者を求める市場からの圧力と不法移民労働者の増加に対応するために実施された制度ですが、政策としての評価は厳しいものにならざるを得ません。「研修生」の数は出身国別に割当られ、労働力不足に悩む中小企業に派遣されました。しかし、多くの研修生が途中で逃げ出し、不法に働くようになったため、この制度は結局失敗に終わりました。人権侵害や研究生の搾取が蔓延し、そうした現状が明るみになってしまったため、「研修生は『労働者』である」、「[同制度は]外国人労働者を輸入するための措置ではない」、という二つの前提が裁判によって覆されたからです。その結果、代替案として、「ゲストワーカー」制度が考案され、また2004年に雇用許可制度が導入されました。それによって韓国政府と送り出し国との間で締結された合意に基づいて集められた外国人労働者のプールから人材を雇用することが出来るようになりました(なお、同制度を利用できるのは一部の分野の中小企業だけです)。ゲストワーカーは「非専門就業査証」(E-9)を与えられ、3年間の滞在許可あるいは最長4年10ヵ月までの延長が認められています。

もう一つのゲストワーカー制度である訪問就業制度は、上記とは異なる背景から発達しました。移民労働者の受け入れ政策が議論され始めていた当初から、海外同胞への配慮が念頭に置かれていました。産業研究生を招待する際にも、中国朝鮮族に対する割当数は大きく設けられていました。中国朝鮮族の韓国での雇用機会を増やすために、政府は訪問同居在留資格(F-1)に属するビザを新たに設けました。当時の「在外同胞法」には、中国の朝鮮族や旧ソ連の高麗人が含まれていないことに対する非難の声が日増しに強まっており、また憲法裁判所が同法に対して憲法不合致決定を下したことがそうした動きに拍車をかけたことも相俟って、「在外同胞法」は全ての同胞を含めるよう改訂されました。その後、中国や旧ソ連からの低熟練労働者に対しても、幅広いセクターで働けるよう特別な措置が設けられました。同胞労働者にはH-2ビザが与えられ、指定された38の業種で3年間あるいは、延長期間を含めると最長4年10ヶ月、韓国で働くことが可能になりました。このような特別な措置は2007年から実施されており、予想に反して移民労働者の増加に繋がることになりました。

外国人労働者政策の骨格となるものと期待された雇用許可制と並行して訪問就業制が導入されたのは、韓国の移民政策が一貫性のある青写真なしに、様々な相互関係のない動きに影響されて進化してきたことを示しています。社会学者李恵景氏は韓国の移民政策が各省庁の利権政治(顧客政治)によって発展したことを示す興味深い研究を発表しました。所謂「多文化家族政策」も、その例の一つです。同政策は、政府各省庁間の争い、NGO、そして学術的言説の相互作用の結果であると言えます。「多文化家族」とは当初、国際結婚を婉曲的に表す言葉でしたが、その後NGOによる運動や学界による世論形成、そして官僚的縄張りを広げようとしていた女性家族部の働きもあって、重要な政策領域になりました。多文化家族政策は確かに結婚移民の権利の向上に貢献しましたが、他方では同政策に比重が置かれるあまり、移民を巡るその他の重要な問題が軽視されてしまうようになりました。「多文化政策」という誤った表現は、移民政策と同義語になってしまい、「多文化家族」がその焦点となってしまったのです。また、多文化家族に対するケアや支援は、彼らを他者化するという予期せぬ結果を生み出してしまったと批判されています。

移民政策の改善に向けた過去数年間の努力の甲斐もあって、韓国の移民政策は比較的高く評価されています。例えば、2012年8月までの実績を基準とした第三次移民統合政策指数(MIPEX III)では100点満点中60点を獲得しました。移民の統合に対して「少し友好的」という評価を受け、MIPEX III対象国36カ国中13位となりました (これは評価実施時の成績に基づいた順位付けです)。韓国は、モデルとなった日本よりも高い成績を収め、またドイツよりも高い評価を得ることができました。ドイツは現行憲法下では外国人に如何なる選挙権も付与する事ができず、日本は憲法による明確な制限はないものの、選挙権を外国人に付与することを拒否しています。しかし、韓国の外国人永住者は地方選挙権を有しています。韓国のこのような「良好な」成績は、移民人口が(特に欧州の多くの国と比べると)比較的少ないことに起因しています。また、MIPEXは、移民政策の現状や実際の効果などではなく、法や政策などの形式的な側面に焦点が置かれています。

移民政策や移民に対する韓国国民の世論も比較的友好的であるといわれています。調査によると、韓国人は外国人や移民に対して比較的寛容であるという結果が示されています。その理由の一つとして、移民は経済を強くし、国際競争力を高めるのに役立つという印象が広く共有されていることが考えられます。世論と政府の言説および移民政策の背景にあるロジックには相関関係があります。韓国政府は、親自由主義と一種の「民族主義による国際競争力の向上」という思想を合わせて移民政策を進めてきました。政府は、一方では、ボーダレスなグローバル資本主義を強調し、他方では海外の優秀な人材を招き国際競争力を高め、なおかつ若い移民を受け入れ急速な高齢化問題を解決しようとしています。そうした政策は、特に李明博政権発足時から特に顕著に見られるようになりました。過去8年間の保守政権は、投資家、専門技術者、熟練労働者、および優れた人材に滞在許可や帰化申請などを与え、優遇する政策とプログラムを導入しました。興味深いことに、こうした優遇措置に対する国民の反発はあまり見られません。その反面、世論調査によると、ゲストワーカーや結婚移民に対する否定的な意見の方が増加傾向にあります。また、外国人の待遇に関しては、人種差別が見られます。そのため、MIPEX III は韓国における人種差別に対する法整備が不十分であることを明るみにしました。

韓国の移民政策は現在岐路に立っています。ゲストワーカー制度の持続可能性については多くの疑問が投げかけられています。ドイツの1970年代の経験が示しているように、ゲストワーカーを本国に帰すことがますます難しくなっています。帰国するよう促すために、韓国政府は本国に帰国した移民が韓国に再入国する場合は、最長4年10ヶ月の滞在許可を与えています。しかし、そうなると、再入国した外国人の永住は免れません。人権を考慮すると、家族との再会を拒否することは非常に難しくなり、連鎖移住がそれに続くことになります。それが現実のものとなった場合、韓国は欧州が経験したような移民問題に直面することになるでしょう。

3. 「市民権」と移民の問題の現状が示唆している韓国社会の今後の課題についてお話しください。

韓国が統一を目指す分断国家であるという事実は、市民権の問題を非常に複雑にしています。韓国はますます多くの脱北者を受け入れています。北朝鮮公民は韓国憲法上は韓国国民であるため、脱北者の処遇はそうした憲法解釈を基本に進めることができます。しかし、韓国政府の脱北者に対する対応には一貫性がなく、そうした憲法解釈では政府の慣行は説明できません。また、そうした問題もあって、他国においても脱北者を難民として処遇するべきなのかを巡り混乱が生じています。

上述したように、韓国への移民の多くは同胞の帰還です。韓国の移民政策は、必然として、ディアスポラ政策と切り離せません。韓国の移民政策がどれほど国家の分断と越境的民族性(transnational nationhood) を勘案するべきなのかは慎重に考慮すべき重要な問題です。

また、ゲストワーカー制度の今後の課題についてですが、移民受入国の多くがこれまで直面してきた、あるいは現在直面している問題に、韓国は悩まされることになるでしょう。そしてそれらは迅速な決定を必要とします。アジアの労働者送り出し国は、労働者受け入れを拡大するよう韓国に圧力をかけています。それには家事労働やケアの分野の拡大も含まれています。韓国は、限られた小数に完全な家族移民を許可するか、あるいは多くの外国人に短期循環移住を許可するか、というジレンマに直面しています。これらは、シンガポールや香港の外国人家事労働者の受け入れに際してダニエル・A・ベル(Daniel A. Bell)やニコラ・パイパー(Nicola Piper)が提起した問題でもあります。こうした問題について考慮する場合、韓国政府および国民は人権を充分に考慮しなければなりません。新自由主義的思想や「国家競争力」のイデオロギーに押されて、人権が蔑ろにされるようなことは避けなければなりません。